輸入禁止の中国ナシを密輸 発見したのは国際郵便の“検疫” 海外産果物に潜む『害虫』がもたらす脅威とは…「日本の農業の打撃が大きすぎる」 2023年09月21日
害虫の侵入を防ぐため輸入が禁止されている中国産のナシ。故郷の味を懐かしむ中国人客らに人気で、違法な密輸が後を絶ちません。海外産の果物に潜む害虫がもたらす脅威と、侵入を水際で食い止める“植物防疫の現場”をツイセキしました。
■中国のナシを密輸 中国籍の女逮捕 大阪の中国物産店で販売 その狙いは?
9月21日、輸入が禁止されている中国産のナシを密輸したとして女が逮捕されました。
【記者リポート】
「中国産のナシを密輸した疑いなどで逮捕された張容疑者を乗せた車が警察署に入ります」
植物防疫法違反などの疑いで逮捕されたのは千葉県の無職・張影(チョウ・エイ)容疑者(28)。張容疑者は2022年11月、日本への輸入が禁止されている中国産の梨およそ28キロを密輸した疑いなどが持たれています。
輸入が全面的に禁止されている中国産のナシ。日本にはいない害虫“コドリンガ”や “ミカンコミバエ”が寄生している恐れがあります。これらの害虫は、幼虫が実の中に入り込み、食いつくしてしまう恐ろしいもの。日本に侵入させないために輸入が禁止されています。
害虫の侵入を防ぐための輸入禁止ですが、今回のように密輸などで入ってくることによって、農作物に大きな影響を与えてしまいます。
張容疑者が密輸した梨は、大阪府内の中国物産店で販売されていました。この店の40代経営者の女も、共犯として書類送検され、有罪が確定しています。
経営者の女は4年ほど前から中国産のナシを販売していて、張容疑者はブローカーのような役割だったとみられています。
【記者リポート】
「女性客が1人、店の中に入っていきました」
中国人ばかりが訪れる店。店内をのぞくと、調味料や食材など、中国の品物がずらりと並んでいます。
現地のような情緒が漂い、塩漬けの鶏肉など肉類も並んでいました。どこで仕入れているのか、日本産らしきみかんやぶどうといった生鮮品も…
店から出てきた常連客に話を聞きました。
【中国人の常連客】
「中国のものを食べたくて買いにいきました。(Q. 何を買ったのですか?)(中国産の)キュウリ。日本では売ってないから。これだけで900円もした」
取り出したのは、中国からの輸入が禁止されているはずのキュウリ。しかも、高い…
–Q:なぜ高いのに買うのですか?
【中国人の常連客】
「食べたいから。おいしいから。(Q.果物は売っているのか?)果物は売っています。例えばナシとか。日本には売っていない種類のナシがおいています。みずみずしくて甘い。食べやすい。日本にいて中国のものを食べられるのは幸せ」
郷愁を誘い売り上げを伸ばしているようですが、密輸は害虫が紛れ込むリスクのある違法行為。しかも、まだ続けているようです。
■日本の農業を守る 害虫侵入予防の最前線「植物防疫所」 海外産果物に潜むリスク
今回、逮捕につながったのは、検疫で梨が入った国際郵便が見つかったことでした。害虫の侵入を食い止める最前線。植物防疫の現場とは…
関西空港内にある“植物防疫所”。ここでは、主に入国する人の手荷物、郵便物、貨物に輸入禁止の植物や検査証明書の添付が義務付けられている植物が違法に持ち込まれないかチェックしています。
訓練を受けた検疫探知犬が、入国者の荷物の間を歩きながら、においをかいで回ります。「何か」をかぎ取ると“お座り”します。これが合図です。
【植物防疫所 職員】
「こんにちは。何か食べるもの入っていませんか?」
【外国人旅行客】
「はい(Q.何が入っていますか?)サラダ」
荷物から出てきたのは、機内食のサラダ。日本に持ち込むことはできないので、ここで廃棄です。
【植物防疫所 職員】
「土付きの植物になります。土は日本に輸入することができません」
【中国人の旅行客】
「ならいいです。持って帰れないなら要らない」
【植物防疫所 職員】
「輸入禁止品になりますので、こちらで廃棄させていただきます」
–Q:土がついた植物は何だったのか?
【中国人の旅行客】
「山菜の苗。日本にない。自分で食べる。(Q.持ち込んだらダメとは知らなかったのか?)全然知らなかった」
一方、国際郵便の検査も探知犬の出番です。反応した郵便物は、職員によって開封され、すぐさま中身をチェックしていきます。日本に入れて良いものか、良いものであっても条件を満たしているか、厳しく確認します。
【神戸植物防疫所 藤井公治植物検疫官】
「これは韓国から輸入されてきた生のニンニクです。生のニンニクは検査証明書が必要になります。検査証明書が入ってないので廃棄処分になります。(Q.植物防疫所的にはアウト?)アウトですね。即廃棄です」
多いときで1日、40個ほどの郵便物をチェック。そのうち4割ほどが廃棄されるそうです。
【神戸植物防疫所 清水佳史次長】
「果物を隠して(国内に持ち込むこと)などはやめていただきたい。なぜかというと日本の農業への打撃が大きすぎる。国損になるのでご理解いただければと」
■害虫のもたらす脅威とは? 侵入すると日本の農家にとって死活問題に
静岡県浜松市。ここでいま、異変が起こっています。広がっているのはサツマイモ畑のはずですが、収穫期を迎えた今も、何も植えられていません。
100ほどのサツマイモ農家がありますが、2023年3月から栽培や出荷を禁止されているのです。その理由は…南アジアやアフリカなどの熱帯地域に広く分布し、日本にはいないはずの害虫“アリモドキゾウムシ”。幼虫が寄生するとサツマイモが黒く変色し悪臭や苦みが生じる厄介な害虫が、この地域で見つかったのです。
【サツマイモ農家・村松孝洋さん】
「アリモドキゾウムシは今回初めて知った。栽培禁止や出荷禁止になるなんて一切思わなかった。生活している人からしたらちょっと死活問題」
サツマイモ農家の村松孝洋(むらまつ・たかひろ)さん。15年前に会社員から農家に転身し、サツマイモ事業に2022年、300万円以上の投資をしました。
【サツマイモ農家・村松孝洋さん】
「(2022年の売り上げは)700万円ぐらいかな。2023年は売り上げゼロよ。作ってないから」
害虫の住み処となるサツマイモをなくし、ただ死滅するのを待つことしかできません。栽培を再開できたとしても、不安が残ります。
【サツマイモ農家・村松孝洋さん】
「風評被害は怖いね。あの地域はアリモドキゾウムシが出た地域だからイモに入っているんじゃないかとか。単価的に下げられたりしたら嫌だな。この一回限りにしてもらいたい。徹底的に国が動いて防除してもらいたいな」
ひとたび侵入すれば、深刻な被害をもたらす害虫。安易な金もうけのために日本の農業を犠牲にするわけにはいきません。
(関西テレビ「newsランナー」2023年9月21日放送)