「通帳に8400万円ぐらい入っていた」 コロナ検査の補助金『不正受給』3人逮捕 架空の検査がエスカレート 容疑者が語る“補助金の魔力” 2024年01月06日
新型コロナウイルス無料検査の補助金を不正に受給したとして、4日、男3人が詐欺の疑いで逮捕されました。
彼らを不正に駆り立てたものは何だったのか。容疑者自らが語った、コロナ禍における補助金の魔力とは。
■コロナ無料検査の検査数を約9600件も水増し
4日、詐欺の疑いで逮捕されたのは大阪市中央区にある歯科医院「ミライデンタルクリニック」の院長で歯科医師の貝田勝之容疑者(63歳)と、無職の竹本智一容疑者(47歳)、タクシー運転手の中野友和容疑者(46歳)の3人です。
3人は2022年2月頃から6月頃にかけて、新型コロナの無料検査事業で検査数をおよそ9600件水増しするなど虚偽の申請をし、国から補助金およそ1億6500万円をだまし取った疑いが持たれています。
警察は3人が容疑を認めているかどうか明らかにしていません。しかし、逮捕前の取材に対しては、3人はそれぞれ次のような対応をしていました。
Q.補助金の不正受給が発表されましたが、これは事実ですか?
【貝田勝之容疑者】「えらい迷惑。僕も被害者やから。結論から言うと、僕は名前を貸しただけ」
Q.補助金をだまし取っていますよね?
【竹本智一容疑者】「違います、違います」
Q.水増し申請とかしていませんか?
【竹本智一容疑者】「してないです」
2人が容疑を否定する一方、中野容疑者は赤裸々に内情を語っていました。
【中野友和容疑者】「最初は“やっぱり絶対これやったらあかんわ”って思ったんですけど、やっぱりお金が絡んでくるとマヒするというか…」
日本全体がコロナ禍に苦しむ中、甘い汁を吸い続けた詐欺事件の実態とは。
■補助金詐欺事件の実態
私たちの日常を大きく変えた、新型コロナウイルス。街から人は消え、皆がマスクをつけていたあの時、国が多額の税金を投じて行ったのが新型コロナの無料検査事業でした。
その際、重視されたのは“スピード感”。誰でも気軽に検査を受けられる体制を整えるため、1件最大9000円の補助金が設定され、多くの民間事業者が検査所の運営に乗り出しました。
その結果、複数の事業者による補助金の不正が発覚しました。大阪府がこれまで不正認定したのは、12業者、80億円以上。
関西テレビ取材班は不正に関わった事業者への取材を重ね、1人の関係者からその実態を聞くことができました。それが、「ミライデンタルクリニック」を舞台にした詐欺容疑で、貝田勝之容疑者、竹本智一容疑者と共に4日逮捕された、中野友和容疑者でした。
Q.今の職業は?
【中野友和容疑者】「タクシーの運転手です」
中野容疑者は、竹本容疑者に誘われて始めた不正受給について、こう振り返ります。
Q.PCR事業を始めるまでの経緯は?
【中野友和容疑者】「不動産業をやったけどうまくいかなくて、いろんな事業の話を聞きに行った中の一つにPCR事業を見つけたような感じですね。PCR事業を始めるにあたって医師免許が必要なので、竹本(智一容疑者)の知り合いの医師免許を持っている先生(貝田勝之容疑者)に声をかけた」
もうけ話に飛びつこうにも、事業に参加できるのは医療機関などに限定されていたため、歯科医の貝田容疑者を引き込んだのです。
【中野友和容疑者】「やり始めの頃は宣伝をしていなかったので徐々にしかお客さんは来なかったんですけど。今思えばやったらだめなんですけど、営業しに行って件数を取ってきたりとかはしましたね」
不正の手口はこうです。当初、検査所にあまり人が来なかったことから、補助金の対象ではない保育園や会社での検査を売り込み、検査所で検査したことにする不正で検査件数を水増しし、補助金を申請。1カ所で100件を超える日もあったということです。
【中野友和容疑者】「1件あたり、当初は3000円だったので。1日にこれぐらい来たらすごいお金だなっていうのは、想像はしていました。やり始めて2カ月したら、やっぱりどの受検者もコロナが心配だからとすごく来たので、改めてすごい事業だなと思いました」
感染が拡大し、検査を受ける人が殺到するようになると、貝田容疑者の歯科医院の患者や、過去に検査を受けた人の名前を使って、中野容疑者らの唾液を検査機関に提出。架空の検査をでっちあげ、手口はエスカレートしていきました。
【中野友和容疑者】「僕がコロナになっていない限りは唾液を取って、あとは申込書を書いて登録するだけなので、本当に簡単にできるような感じですね。最初は“やっぱり絶対これはやったらあかんわ、絶対ばれるわ”って思ってたんですけど、やっぱりお金が絡んでくるとマヒするというか…簡単に処理ができるので、普通に、それが当たり前のようにやってましたね、最終的には。こんな簡単にできるから、どこの業者さんもやっているのかなと思いましたけど」
こうして積み上げた不正で、「ミライデンタルクリニック」が受け取った補助金は総額で4億円にのぼりました。そして中野容疑者と竹本容疑者は、たったの数カ月で多額を手にしたのです。
【中野友和容疑者】「銀行の通帳を見たら、ミライデンタルから8400万円ぐらい入っていた」
Q.税金をだましとったことについてはどうお考えですか?
【中野友和容疑者】「そうですよね。悪いと思っていますし、何て言ったらいいんでしょうね。皆さんの税金を使ってやっている分なのでね。でもその時はやっぱり悪いと思ってなかったからやってたと思うんですけどね。今思えば、本当にすごい過ちを犯したなっていうのはありますけど。言い訳じゃないですけど、竹本から『やってこい』というのを毎日言われていたので、やらされてやっていたような感じですけど」
■「僕も被害者」「他の事業者も不正をしている」と身勝手な言い分
中野友和容疑者が「指示された」と名指しする竹本智一容疑者は取材に対し、はじめは容疑そのものを否定していました。
Q.補助金をだまし取っていましたよね?
【竹本智一容疑者】「違います、違います」
Q.水増し申請とかしていませんか?
【竹本智一容疑者】「してないです」
Q.なぜ補助金を詐取しようと思ったのですか?
【竹本智一容疑者】「朝からは勘弁してください。ビデオとかまわされても困るんですけど」
しかし、記者が追及を続けると、次の言葉が返ってきたのです。
Q.補助金を不正に申請していたのは認めるのですね?
【竹本智一容疑者】「3人で全部やっていました」
Q.何をやっていたのか具体的に教えてもらえますか?
【竹本智一容疑者】「知らないです」
Q.補助金は税金だと思いますが、それをだまし取っていたことについてどうお考えですか?
【竹本智一容疑者】「それもしゃべれないです。弁護士さんと話してからにさせてください」
一方、歯科医院を運営していて、この不正を行う上で不可欠な存在だった貝田勝之容疑者。逮捕前に行った取材に対し、貝田容疑者は…。
Q.新型コロナの不正受給が発表されたと思います。これは事実?
【貝田勝之容疑者】「えらい迷惑。僕も被害者やから。結論から言うと、僕は名前を貸しただけ」
Q.名前だけ貸して、貸した人たちが不正を働いたと?
【貝田勝之容疑者】「そうそう。そういう所がほとんどじゃないですか?あの時の世の中はどんぶり勘定になってた。それを精査するのが大阪府の仕事。言い方悪いけど、(大阪府が)だらだらとそこまで引っ張ってしまったというのもある」
犯行への関与を否定するばかりか、大阪府を非難するありさまです。
いつでも、どこでも、誰でも受けられる。無料検査所を広げるため、補助金のスピード交付を重視した大阪府の担当者は、こう振り返ります。
【大阪府の担当者】「性善説に基づいた制度設計。これだけの不正が行われていたのは極めて遺憾。一部の事業者による不正行為は許しがたい。早急な返還を求めたい」
自らが不正に関わったことを赤裸々に話した中野容疑者は、最後に次のように話しました。
【中野友和容疑者】「少なからず僕も税金を使って生活していたので、本当に申し訳なく思っています。やってしまったことなので、きちんと罰を受ける覚悟はできています。あとはしっかり、補助金で僕が使っている部分をお返しできたらなと思います」
反省の姿勢を見せる一方で、改めてこう強調しました。
【中野友和容疑者】「僕より多分、もっともっと(不正を)やってるところも絶対ありますよ。いや、笑い話じゃないですけど、絶対やってないところがないです」
時折笑いながら、他の事業者も不正を行っていると話していました。
そして4日、不正の疑いで他に「鶴見PCRセンター」の関係者も逮捕されました。
大阪府が不正を行ったと認定したのは、今回関係者の逮捕に至った「ミライデンタルクリニック」、「鶴見PCRセンター」を含め計12事業者。被害の総額は約83億円にのぼっていて、今後他の事業者にも捜査が及ぶとみられています。
(関西テレビ「newsランナー」2024年1月4日放送)