■歴史ある寺を乗っ取られた 刑事被告人の元住職 初公判始まる
14日午前、大阪地方裁判所に向かっていた一人の僧侶。“天下茶屋の聖天さん”と親しまれた由緒ある寺の住職でしたが、今は、刑事被告人です。
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「寺に迷惑をかけたことは事実なので、真摯に反省しています」
寺は乗っ取りに遭い、自らは詐欺など5つの罪に問われる立場です。3月14日には初公判が開かれましたが、審理が行われることはありませんでした。当初、ついていた弁護人が、共犯の弁護も担当することに不服があり、辻見被告が解任したため、この日は弁護人が付かない状態で公判に臨んでいました。そのため、弁護人がつく予定となった次回以降に、審理が先延ばしされたのです。
辻見被告はこれまで、関西テレビの取材に対し起訴内容を概ね認めています。歴史ある寺を転落させた被告人である、正圓寺の元住職・辻見被告の言い分とは。
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「悔しいの一言に尽きるんですよね。自分のスキルのなさというか、勉強不足に尽きると思う」
数十億円もの価値があるという寺の土地建物が人手に渡った乗っ取り事件とは何だったのでしょうか。
■吉田兼好にゆかりのある寺の転落 元住職が取材に応じる
大阪市阿倍野区にある “正圓寺(しょうえんじ)”。平安時代に創建されたと伝えられ、地元では“天下茶屋の聖天さん”と親しまれていました。
「徒然草」で知られる吉田兼好にもゆかりのある由緒正しい寺は今、訪れる人もほとんどおらず、お堂の修復もままならない状態です。
乗っ取り事件の舞台となった寺。2023年10月、捜査のメスが入り、住職だった辻見覚彦(つじみ・かくげん)被告も逮捕・起訴されたのです。
合わせて5つの罪に問われている辻見被告。保釈された今、「乗っ取り」についてこう振り返ります。
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「分不相応なことをして、こんなことになってしまった。先代にも顔向けできませんし、檀信徒(だんしんと)の皆さんにも顔向けできない」
■「寺の運営を立て直すため」 特養ホーム建設でつまづき
事件の発端は自らの失敗からでした。辻見被告は寺とともに、父親から受け継いだ寺の境内に特別養護老人ホームを造ることを計画しました。檀家が減り、収入が減った寺の運営を立て直すための秘策でした。
しかし、建設の手続きの中で大阪市に虚偽の書類を提出していたことが発覚し、手にするはずの補助金がストップ。資金繰りが悪化して建設会社への支払いが滞り、窮地に陥ったのです。
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「建設を請け負ったゼネコンの方から工事代金の未払いということで、特養の敷地・建物に仮差押さえがついたんです。初めての経験だったんで、まったく右も左も分からなくて」
そんな辻見被告に友人から紹介されたのが、ともに逮捕・起訴された南野潤二(みなみの・じゅんじ)被告(55歳)と西村浩(にしむら・ひろし)被告(57歳)でした。
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「やわらかい物腰で接してきましたけどね。(土地取引に関して)はるかに高度なスキル(知識)は持っていたと思います」
南野被告と西村被告は不動産取引の知識と経験を誇示し言葉巧みに信用させると、「このままでは大変なことになる」と繰り返し、辻見被告を追い込んでいったというのです。
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「『寺を全部取られて、住職が逮捕される』とずっと刷り込まれていたので」
この窮地を脱するには2人にすがるしかないと思うようになった辻見被告。差し押さえを免れようと、言われるがままに寺の土地の一部を西村被告の会社に売ったように見せかける虚偽の登記をし、今、罪に問われています。
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「一時的に資産を隠さんと全部取られるよ、移転登記した方がいいとたきつけられて。それをうのみにして信じて言われたとおりに、はんこをついてしまったのかなと。(Q.どの書類に押印したのか覚えていないのですか?) そうですね」
■気づけば土地が勝手に売却 「よくも、ここまでだましてくれたな」
しかし、気づいたときには土地は勝手に売却され、売却代金およそ1億1000万円は西村被告が受け取って正圓寺には1円も入りませんでした。
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「もともと売るつもりはなかったので、それを勝手に売ってしまったことに関して自分の中でいまだに『何で?』という思いがある。よくも、ここまでだましてくれたなと思います」
差し押さえを免れようとしたはずなのに結果的に土地を失っただけ…そして、これだけでは終わりませんでした。
■これで終わらず…別の人物も登場
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「ほんまにこのままいったら泣き寝入りするしかないのかなと。不動産の事件関係にたけた人間ということで紹介してもらったのが加尻君(平岡被告)」
南野・西村両被告と縁を切った辻見被告のもとに現れたのが、加尻こと平岡弘聖(ひらおか・こうしょう)被告でした。
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「話をよく聞いてくれて、この人すごい余裕がある人やなと思いました。特養関連の書類もあの2人(南野被告と西村被告)が持って帰っていたので裁判を起こす、告訴状を作ることが全くできていなかった。裁判資料を引き出してくれたんのも、彼(平岡被告)がいたところがあった。そういう部分では、良くしてくれたと思う」
またしても、いとも簡単に平岡被告を信じた辻見被告。
しかし、平岡被告も優しい時期は長くは続きませんでした。
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「1年ぐらい前からお寺を中国系の人に売ろうかなという話をちらちらしていた。(Q.それでも平岡被告を信頼した理由は?)ここ1年ぐらいは(平岡被告に)頭から押さえつけられていた。お布施や家賃は全て加尻君(平岡被告)に渡していました」
徐々に寺の実権を奪われ、いつの間にか、登記上の宗教法人代表まで平岡被告に名義変更されたのです。
これが虚偽の登記だとして平岡被告は逮捕・起訴されていますが、逮捕前の取材には「正当な手続きだった」と主張しています。
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「僕も逮捕されるぎりぎりのときにそれ(名義変更)を聞いて。(辻見被告を)逮捕させて警察の中に入れておくと、自分(平岡被告)が名目上、代表役員になってお寺を売ってしまおうと思っていたのではないか」
こうして、寺の土地と建物ばかりか、宗教法人の代表権も失った辻見被告。今は寺を離れています。
■歴史ある寺が“不法投棄”場所に 「自身の甘さが発端」
一方、住職不在となっていた正圓寺は、近隣の寺の住職ら有志が集まって住職に代わって細々と運営しています。辻見被告も時々、掃除の手伝いなどのため寺を訪れています。
–Q:あのバイクは何ですか?
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「不法投棄ですね。夜中にいろんなものを捨てにくるから。この中に入っている布団とかもそうですよね」
歴史ある寺が、ごみを捨てる場所にされている、寂しい現状があります。
–Q:事件の発端となったのは何だと思いますか?
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「自身の甘さなんでしょうね」
■寺を再建する道は…
こう振り返りつつ、住職復帰に意欲を見せる辻見被告に対し、今、寺を守っている人は…
【正圓寺を守る会・元木淳雄さん】「犯した罪は罪なので、償わないと檀家や信者、近隣住民に示しがつかない。お金を借りていると聞いているので、少しずつ返していくという姿勢を見せることによって、僕らが『辻見さんが戻っていいですか?』と聞く前に皆さんが認めると思う」
そして、再建に辻見被告が役に立つこともあると話します。
【正圓寺を守る会・元木淳雄さん】「正圓寺は古い歴史があって、辻見さんしか知らないこともある。辻見さんを慕っている檀家がいるのも確かなので、僕らが居座るわけにはいかない」
【正圓寺・元住職 辻見覚彦被告】「批判は甘んじて受け入れますけど、お寺がちょっとずつでも良くなっていけるように頑張りたいと思います」
地域で親しまれてきた古刹が、住職や周辺の人物によって、ひどいありさまとなってしまいました。再建は前途多難です。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年3月14日放送)